VAIO type U 開発秘話 [開発秘話]
こんにちは、担当者 T です。
5/16(火)の新 type U 発表から約 2 ヶ月半、ご好評のあまり当初の予定からは 3 週間近く延長して続けさせていただいたこの『type U:担当者が語る』ですが、本日でいよいよ最終日とさせていただくことになりました。
ということで、今回は初心に返り、type U の生い立ちについて語らせていただきたいと思います。
PC に限らず、伝統的に「世界最小・最軽量」な製品の数々を世に送りだしてきたソニーには、「とにかく小さく軽く作る」ことが得意な人がたくさんいます。ソニーでは、小さい製品を開発したときに、試作機を水につけて出てくる泡が少ないほうが良い設計であり、泡が出てくれば「まだまだ小型化できる余地がある」と判断されてしまう、という象徴的なエピソードがあるくらい、小型軽量化にはこだわりをもつ開発者が少なくありません。
しかし、今回の type U に関して言えば、従来のバイオ U・VAIO type U に関わったことのある開発者は、ほぼ皆無に近かったのです。類似したジャンルで言うと商品企画担当とデザイナーが以前 CLIE に携わっていた経験がある、といった程度でした。中でも、type U のプロジェクトリーダー鈴木に至っては、バイオノート GR や VAIO type A(VGN-A シリーズ)などの開発を担当しており、むしろ「フルスペックノートといえばこの人」と見られている人だったほどです。
が、type A の開発が一段落し、マネージャーから鈴木が「今度は作りたいものを作れ。ただし、『トンガったもの』を」という指示を出されたとき、さまざまな方向性を検討した結果、最終的に作りたかったのは「とにかく小さいもの」でした。それは、ソニーの中では最も『トンガったもの』であり、『ソニーらしいもの』でもあったのです。やはり、一度は自分のブランドでいちばん小さいものに挑戦したい、というのが、ソニーの技術者の根底に流れる「血」なのかもしれません。
しかし、中には「小さいものなんて大嫌い」という技術者も、いなかったわけではありません。が、それは裏を返せば嫌いな「原因」さえ解決してしまえば、逆にそれまで大嫌いだったものでも大好きになるかもしれない、という開発の上で非常に重要なヒントとなるのです。どこに嫌いなポイントがあるのか?どこにストレスを感じるのか?それはそれで、貴重なアイデアなのでした。
例えば、小さいものが嫌いだった設計者曰く、「キーボードがないと何をしていいか分からず、そこにストレスを感じた」。こういったポイントをひとつひとつ押さえていくことで、新 type U の目指すべき方向性が見えてきました。小さいものが好きな開発者だけが集まって作っても、これはこれで「いいもの」にできないかもしれないのです。
また、今回の type U の開発チームは、商品企画や各設計チームのリーダー、デザイナーなど、VAIO 開発者の中でも特に個性の強いメンバーが集まっていたような気がします。それだけに「自分の意見に対するこだわりが強く、仕様をまとめあげるのが最も苦労したポイントでした」というのが、鈴木のコメントでした。
これらの意見や従来製品に対する市場の反応、そして実際のユーザーのみなさんからの声、そういったものを加味して新しい type U は現在の姿にまとまりました。
が、type U はまだまだ現在の姿が完成型だとは考えていません。もちろん「現時点での」最適解であると自負してはいますが、基盤となる技術や社会的なインフラ、あるいは文化といったものの進化に伴い、type U もまだまだ進化するものだと考えています。その時々の「最小・最軽量」をターゲットとし、より高いユーザビリティーを目指しつつ、最新の技術やソリューションを組み合わせた「トンガった」モバイル PC として、新たな世界を切り拓いていければ、と。
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この『type U:担当者が語る』、いかがでしたでしょうか。ソニーの担当者がこのような形で商品にまつわるさまざまなことを直接ご紹介させていただくというのはあまり前例がなかったため、不手際もあったかもしれません。が、ここまで大きな反響とみなさんの暖かい応援をいただいて、継続することができました。この場を借りてお礼を申し上げます。
この blog は本日をもって更新を完了しますが、これからは今までと同様に製品を通して私たちソニーの熱いメッセージを受け取っていただければ、幸いです。
この先また同じような形でお会いできるかどうかまだ分かりません・・・と書こうと思いましたが、実は、この blog のご好評を受けて「VAIO ホームページ」の HTML メールマガジン『VAIO E-News ストア通信』に、今後不定期に記事を書かせていただくことになりました。というわけで、引き続き担当者 T の記事を読みたいと思っていただける方は、ぜひ『VAIO E-News ストア通信』の購読をお願いします。
それでは、またお会いできる日まで。
どうもありがとうございました。
担当者 T
type U <ゼロスピンドル>開発秘話 [開発秘話]
こんにちは、担当者 T です。
本日は、待っていた方もいらっしゃるのではないでしょうか?<ゼロスピンドル>の開発秘話をお届けしたいと思います。
type U <ゼロスピンドル>に搭載されているフラッシュメモリーは、HDD と比較して下記の 4 つのメリットがあります。
- HDD と比べてアクセス速度が 3~6 倍高速
- HDD と比べて軽量
- HDD と比べて故障しにくい
- HDD と比べて省電力
逆に、フラッシュメモリーの HDD に対するデメリットといえば、容量がまだ大きくないことと、価格が高いことくらい。それさえ解決できれば、ほぼ完全に HDD を凌駕する夢のデバイスと言っても過言ではありません。
そんなフラッシュメモリーを搭載した type U <ゼロスピンドル>の製品化にあたっては、優秀なフラッシュメモリーコントローラーを開発することがポイントでした。
実は、フラッシュメモリーに関する上記 1~3 の特長(中でも、特にスピード)に関しては、あらかじめ多くの情報がありましたが、4 番目の特長(省電力)に関しては、消費電力やパワーマネージメントに関して気を使っているものが非常に少なく、モバイル環境では使えないものも多数ありました。
フラッシュストレージとしては、信頼性を重視する用途向けに、以前から業務用あるいはサーバー用途のものが存在していましたが、これらは消費電力に関しては全くと言っていいほど考慮されていませんでした。これらの用途は基本的には安定化電源まで用いて、絶対に電源が切れない環境を前提に運用されているものなので、消費電力を抑えることは考慮されておらず、モバイル環境での使用に耐えるものがありませんでした。
が、“ウォークマン”などのポータブルデバイスでフラッシュメモリーの採用が進んだことなどをきっかけに、フラッシュメモリーコントローラーの省電力化が加速してきました。これらの技術を背景に搭載された<ゼロスピンドル>のフラッシュメモリーは、1.8 型 HDD(これも、現在のものはかなり低消費電力化が進んでいます)と比較しても消費電力の低いデバイスとなり、結果的に HDD モデル比で 13% のスタミナアップを実現しています。
また、カタログ等に記載している JEITA((社)電子情報技術産業協会)のバッテリー測定方法では、測定中にあまりストレージに負荷をかけずに測定しているため、データストレージの消費電力の差は数値に表れにくく、実使用環境よりもその差が短く出る傾向にあります。
JEITA 準拠のバッテリー駆動時間は HDD モデルが約 3.5 時間、<ゼロスピンドル>が約 4 時間と、30 分の違い(標準バッテリー使用時)になっていますが、実際の使用ではストレージデバイスに何らかの形でアクセスしながら Windows を操作することが少なくないため、実使用上はカタログ値の違い以上に<ゼロスピンドル>のほうがスタミナがもつ印象を受けるかもしれません。最近では特に動画や音楽など、ストレージに記録されたデータを継続的に読みこみながら行う動作が多くなっているため、そういった用途ではその差も大きくなるのではないでしょうか。
もちろん、HDD でも用途によってはフラッシュメモリーとの消費電力の差が表れにくいケースもあるはずですから、type U やあるいは今後登場するかもしれない他の<ゼロスピンドル>PC では、コストなども鑑みて自分の使いかたではどちらのほうが合っているか考えてみるのも、面白いかもしれません。
type U が目指したもの [開発秘話]
こんにちは、担当者 T です。
早いもので、この blog が始まってから 2 ヶ月が経ちました。
開設当初、「2 ヶ月限定」と宣言してスタートしたので、本来ならばこの blog もそろそろ終了する頃です。が、最近のほうがむしろ多くのアクセスをいただいていたり、大きな反響をいただいていたりしますし、「ずっと続けてほしい」というありがたいお言葉すらいただいています。さすがにずっと続けていくことは難しいのですが、応援してくださっているみなさんの声にお応えして、あと少しだけ続けさせていただきたいと思います。
というわけで、この blog も本日は原点に帰って「type U が目指したもの」、つまり商品企画として type U がどのようなところを目指して作られたか、をお話ししたいと思います。
「type U 開発者に聞く」でも語られていますが、「VAIO が得意とする部分が出せるもの」「みんなが驚くような最先端でトンがったもの」というポイントを突きつめて「一番小さいもの」、つまり今回の type U が出てきました。
が、type U には企画時点から込められた思いが 2 つあります。それは、「ナビゲーションによって広がる世界」と「生活のタイムシフト」です。
ソニーでは、比較的早い時期からいろいろな製品と GPS や地図を組み合わせ、位置情報を活用する提案を行ってきました。VAIO でもかつてカーナビゲーションがまだ普及していなかった頃に「Navin' You」で PC カーナビという使いかたを提供していた時期がありました。
そのうち、カーナビは次第に低価格化が進み、今ではクルマに必須の装備と言えるほどに普及しています。みなさんの中にも、カーナビを導入してから「目的地までどうやったら行け、どのくらいの時間がかかるか」「目的地の周辺にはどんな場所があるか」などが簡単に調べられるようになり、行動範囲が広がったという方は少なくないのではないでしょうか?
こうしてカーナビゲーションシステムが一般化した今、また PC でもオンライン/オフラインを問わずにさまざまなデジタルマップが揃ってきた今だからこそ、「クルマ以外でもナビができたら、もっといろんな場所に行けるはず」と考え、type U に地図アプリケーションと関連ソリューションを組みこみ、アクセサリーとしての GPS を用意しました。
結果的に type U では単に地図で目的地を検索してナビとして使用する、というだけではなく、目的地の周辺情報を検索したり、地図上に写真を貼りつけて旅行記のように活用したり、というように、目的地に行く前から行った後までの一連の楽しみをご提供することができたかと自負しています。
もう一点は「生活のタイムシフト」です。「タイムシフト」というと、放送時間帯には観られない番組を録画しておくという「時間に拘束されずにテレビ番組を観る」という視聴スタイルにソニー自身が名づけたものですが、type U ではこれをテレビ以外の生活シーンにも適用してみよう、という思いが込められています。
情報の氾濫する現代では、自分に必要な情報の取捨選択だけで多くの時間を消費してしまい、本来自分がすべき仕事ができない、という状況が発生しがちです。ソニーの中でもそうやって時間に追われてしまっている人が、実は少なくありません。では、いつも使っている環境をポケットやバッグの中に詰めこんで、ちょっとした空き時間や移動時間などにできる仕事をこなせば、もっとゆとりのある生活ができるのでは・・・という観点で、仕事を「タイムシフト」して自分の時間を整理するため、いつも使っている Windows の環境をポケットサイズに詰めこんでみました。
同様の試みは今までも PDA やスマートフォンなどで長らく行われていました。しかし、その多くが PC とは異なる環境であり、Office や PDF のビューワー、あるいはブラウザやメーラーなどを搭載していても PC とは完全な互換性がなかったり、使い勝手が異なったりして本当の目指すところまで到達できていなかったように思います。type U では Windows XP そのものが PDA に近いサイズに収まることで、その目標にかなり近いところまで届いてきたのではないでしょうか。
type U ではどうしてもその小ささやふんだんに用意されたソリューションに注目が集まりがちです。が、やはり type U のコンセプトを最も明確に表しているのはこれら 2 つの狙いと、それに基づいて作られたハードウェア・ソフトウェアだと考えています。type U が目指したこの 2 つの目標は、みなさんに伝わっているでしょうか?そして、この 2 つの実現すべく作られた type U が、みなさんのライフスタイルに新しい「何か」をもたらすことが、できているでしょうか。
type U の「ワンセグ」機能開発秘話 (2) [開発秘話]
こんにちは、担当者 T です。
本日も昨日に引き続き、「ワンセグ」機能にまつわる開発秘話をお届けします。
※ご注意:
製品を分解または改造すると保証対象外となります。お客様ご自身では絶対に分解しないでください。
おそらく本邦初公開でしょうか・・・こちらが<ゼロスピンドル>に搭載されている、ワンセグモジュールの写真です。
本体の左下、電源コネクターの上あたりに、非常に小さな基板が内蔵されています。これが、type U のワンセグモジュールです。
基板上に実装しているチップ類は type T ワンセグ搭載モデルのものとほぼ同じながら、type U に搭載するために回路は type T のものよりも小型化しています。基本的に、回路や基板は大きい方がノイズを分散させやすいので、小さくすればするほどノイズ対策は大変になります。特に、type U では PC の中でも最大のノイズ源のひとつである CPU のごく近くにワンセグ基板を内蔵せざるを得ず(いずれにしても type U くらいの本体サイズでは、どこにどう配置しても CPU との距離は近いのですが)、ノイズ対策には非常に苦労しました。
前回、アンテナの感度を上げるための苦労話を書きましたが、実はアンテナの感度を上げるよりむしろノイズを減らすほうが重要かつ大変なのです。いくら良い状態で電波を受信できても、チューナーに届く前にノイズだらけになってしまったら意味がないですよね。というわけで、ワンセグ機能の開発はほぼノイズとの戦いだったりします。開発者曰く「設計工数の約 70% はノイズ対策」だったそうです。
アンテナの開発と同じく、いくらシミュレーションで良い値が出ていても、実機では想定外のノイズが入ってくるもの。ワンセグモジュール単体の開発時点から type U 本体への実装にかけて、開発が進むごとにむしろ感度が落ちており、そのたびにノイズ対策を施しています。対策をしては実機を組み直してデータを取り、を繰り返して最終的な製品にたどり着きましたが、その試行錯誤にかけた時間はかなりのものでした。ワンセグ自体がまだ始まったばかりのサービスなので、開発上のノウハウは開発しながら蓄積しなくてはならない、という側面もあったはずです。「ワンセグ」という新しい機能の開発というと非常に派手なイメージがありますが、その実際は非常に地道で泥くさい試行錯誤の繰り返しでした。
その甲斐あってか、type U <ゼロスピンドル>のワンセグ機能はかなり使い勝手の良いものになっています。ワンセグモジュールは本体に内蔵され、アンテナも収納時は HDD モデルと全く同じ本体サイズをキープしていますし、感度や画質も思った以上に実用的なものだと思います。
また、ワンセグ視聴・録画用のソフトウェア「VAIO モバイル TV」に関しても、「VAIO ならでは」の観点で要件を洗い出し、それをベースに開発されています。例えば PC では携帯電話などと比べてかなり画面サイズが大きく、解像度も高いため、それを活かすような形でソフトウェアとしてまとめました。
例えば、VAIO のワイド画面を活かし、「ながら視聴」ができるようにサイドバーモードをデフォルトの状態にしています。また、データ放送画面をスクロールせずに一覧できたり、テレビ画面・チャンネル一覧・データ放送の全てを一画面に表示できたりするのは、PC の高解像度ならではの特長でしょう。type U では全画面表示でも十分にきれいですし、さらに縦画面表示にも対応するなど、アプリケーションも機種ごとに最適な使いかたができるように工夫しています。
さらに、大容量のストレージを活かし、予約にも対応した録画機能や TV ポーズ/さかのぼり視聴機能など、他のワンセグ対応機器にはない、オンリーワンの使い勝手を実現できていると言って良いでしょう。また、ワンセグのサービス開始と近い時期に、ワンセグに適した type T・type U という機種が登場したことも、ただの偶然ではないのかもしれません。
この先も、ワンセグの可能性を広げる機器や機能の開発は継続されるはずです。それがどんな方向に広がっていくか・・・はまだ分かりませんが、まずは今できる限りを詰めこんだ type U <ゼロスピンドル>のワンセグを楽しみつつ、来るべきモバイルの未来に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
type U の「ワンセグ」機能開発秘話 (1) [開発秘話]
こんにちは、担当者 T です。
ここ数日 type U <ゼロスピンドル>の「ワンセグ」機能についていろいろとご紹介していますが、本日はこのワンセグ機能にまつわる開発秘話をお届けしたいと思います。
※ご注意:
製品を分解または改造すると保証対象外となります。お客様ご自身では絶対に分解しないでください。
VAIO は type T で「PC として初めて」ワンセグ放送の視聴・録画に対応し、当初はワンセグの本放送開始前だったにもかかわらず、かなりの反響をいただきました。type U <ゼロスピンドル>に搭載されているワンセグ機能は、この type T のワンセグ機能の開発者によるものです。
VAIO のワンセグ機能は、ソニーの中でも(さらに言えば、業界の中でも)いち早くワンセグに注目し、ワンセグに関わってきた開発者によって開発されました。どのくらい「いち早く」だったかというと、まだ社内でも正式にワンセグの研究・開発がスタートしていなかった頃に、個人的にワンセグに着目したメンバーが、通常業務の外で研究・開発に着手したのが始まりだった、といえばイメージできるでしょうか。
VAIO に搭載されているワンセグモジュールは、チューナーからアンテナ、ソフトに至るまでほぼ全てがソニーの自社開発によるものです。テレビメーカーでもあるソニーの意地として、新しい放送方式に対応した製品をいち早く商品化するため、自社の技術を活かすことにこだわりました。
また、放送波はノイズに対して非常にシビアなのにもかかわらず、PC は MHz・GHz 単位で動作する電子部品がひしめく、電波にとってみれば「ノイズの塊」のようなものです。そのため、ワンセグモジュールも機種ごとに設計を最適化する必要があり、type U では type T とは異なるアンテナや回路を開発し、搭載しています。
例えば、「ワンセグ対応」の象徴でもある、アンテナ。
これが type U <ゼロスピンドル>に搭載されているワンセグアンテナの中身です。フレキシブル基板の上にジグザグ状のパターン(「ミアンダ」といいます)でアンテナが形成されているのが分かるでしょうか。このミアンダパターンによって、限られた長さのパーツの中でできるだけアンテナの長さを稼いでいます。
ワンセグ対応携帯電話などでよくあるように、一般的にはアンテナはロッドアンテナ(伸縮する棒状のアンテナ)のほうが感度を出しやすいと言われています。が、ロッドアンテナを実装するのにはそれなりのスペース(厚み)が必要になるため、type U では本体の小型化(HDD モデルと同サイズに収めること)やデザインを重視して、あえてフラットアンテナを採用しています。
このフラットアンテナも、単にミアンダのパターンをプリントすればいいというわけではなく、アンテナの長さや形状、搭載する場所によっても特性が大きく変わります。このため、線の幅や間隔の違いだけでも膨大なパターンのミアンダをシミュレーションし、その中から 60 くらいのパターンを実際に実験し、最も特性が出る形状とパターンを採用しました。
ワンセグ機能の開発は type U 本体の開発と平行して行われたため、開発の途中までは実際に動作する本体がない状態で行わなくてはなりません。本体がない状態である程度長さを決めて、その中でどういう特性を出せるかシミュレーションで試すのですが、そうはいっても type U のような複雑な形状をもつ本体につける場合はシミュレーションしきれないため、その後の開発中の実機でのテストとその結果を受けての修正にかなりの時間を費やしました。
このように、アンテナの開発秘話だけでもかなりの試行錯誤があったのですが、ワンセグ機能はアンテナだけで実現できるものではありません。というわけで、次回に続きます。
type U の HDD プロテクションに隠された秘密 [開発秘話]
こんにちは、担当者 T です。
先日のエントリーで「VAIO ハードディスク プロテクション」に関してご紹介しましたが、実はこの話にはまだ続きがあります。
「VAIO ハードディスク プロテクション」は単純に衝撃回避ソフトウェアを搭載しただけ、と思われがちなのですが、それだけではありません。ハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって、効果的に HDD をクラッシュから守る工夫が施されています。
ポイントは、2 つ。
(1) HDD の取り付け構造
(2) 加速度センサー搭載による、HDD のヘッド退避
本日は、この 2 点についてご説明します。
(1) HDDの取り付け構造
当然ですが、VAIO で新しいシャシーを設計する際には、必ず HDD に加わる衝撃値を測定しています。その結果をもとに、HDD に加わる衝撃値が最小になるように、下記のような修正を加えています。
- ネジなど固定方法の調整
- HDD 固定金具の形状調整
- ゴム足追加や、その位置調整
これに加え、用途を考えると一般的なノート PC よりも振動や衝撃に晒される可能性の高い type U では、特別に HDD のシャシーへの固定に新素材のゲル(下記写真)を採用しています。
このような新素材を使用したことにより、今回の type U では従来機種に比べて高い耐衝撃性を実現しています。
(2) 加速度センサー搭載による、HDD のヘッド退避
VAIO の HDD プロテクションにおける基本方針は、「ユーザーの使い勝手を損なわず、データを守る」です。そのため、機種ごとに最適な磁気ヘッド退避アルゴリズムを独自に開発しています。
テーブルに置いて使用する機種と、type U のように持ち歩いて使用する機種でアルゴリズムが異なるのは、ある意味当然ですね。
type U では、実際にヘッドホンをつけた状態で音楽を再生させながら歩く実験を行い、どの程度の加速度が本体にかかっているか、というデータを収集しています。このデータをもとに、ヘッド退避条件のパラメーターを決定しているのです。このあたりのパラメーターやアルゴリズムはノウハウにあたるため、さすがにお教えはできないのですが、ちゃんと上記のような試験に基づいた設計がなされている、ということです。
※使用中に本体にかかる振動や衝撃は、環境や個人差が非常に大きいため、使用中に振動や衝撃が加わった際にヘッドが必ず退避することを保証するわけではありません。
また、これらの振動・衝撃検知エンジンはソフトウェア処理ではなく、全て内蔵チップ側に実装して、OS や CPU には負荷をかけない低消費電力設計となっています。
一口に「HDD プロテクション」といっても、単純に加速度を計測してヘッドを退避させるだけの実装では、感度が良すぎて頻繁にヘッドが退避してしまい、パフォーマンスが落ちて使い勝手に影響してしまうので、VAIO では本当に必要なときのみ退避をするようにアルゴリズムを最適化し、使い勝手と安全性の両立を図っています。
近年の PC では、本体以上に保存されたデータはその PC の「命」ともいえるもの。そのデータを極力クラッシュから守るために、(type U に限らず)VAIO では以上のようにさまざまな試行錯誤や個別最適が図られているのです。
スライド式小型・薄型ディスプレイユニット開発秘話 (2) [開発秘話]
こんにちは、担当者 T です。
昨日に続き、液晶ディスプレイユニットの開発秘話をお届けします。
※ご注意:
繰り返しになりますが、今回分解した type U は試作機であり、実際の製品版とは一部外見等が異なります。
また、製品を分解または改造すると保証対象外となります。お客様ご自身では絶対に分解しないでください。
ということで、type U のディスプレイユニットには様々な要件が課せられたのですが、開発は困難を極めました。いろいろな基板がどの程度の大きさで実現できるのか、構造を決めるまでの過程ではなかなか見積もりが進まなかったのです。
たとえば、カメラのレンズが 2 個ある構造にしても、当初、以前の「バイオ C1」などのようにレンズを回転させる案も検討しましたが、どうしても液晶ユニットに回転機構がスマートに収まらないのです。
ならば、カメラセンサーを 2 つにして、それぞれ手前側専用、相手側専用という具合に仕様が決まったのですが、携帯電話ならまだしも、PC の世界でこんなことをしている例は他に見当たりません。つまり、初物を小型化していく必要があるのです。
特に、131 万画素カメラ(背面カメラ)のレンズ部分は、携帯電話向けのデバイスを流用したわけではなく、携帯電話向けよりもさらに薄型の部品を type U 専用に開発したものです。
指紋センサーが乗る基板に関しても、この基板の大きさにセンサー、IC を含めたすべての部品が搭載できるか、ギリギリの大きさで「攻めて」いたため、機構担当が何度図面を書き直したか分からないくらいです。
それくらい緻密に、一歩一歩小さくしていき、構造を検討していきました。機構担当の「意地」ともいえる努力でこの場所に詰めこまれたのが、type U の液晶ディスプレイユニットなのです。
実は、液晶ディスプレイ上部に配置されたそれぞれのデバイスは、上の写真のように 4 枚の基板で構成されています。
- 指紋センサー部: 1 基板(写真左)
- カメラコントローラー部: 1 基板(写真中央下)
- 31 万画素カメラセンサー部: 1 基板(写真中央上)
- 131 万画素カメラセンサー部: 1 基板(写真右)
です。
通常、この手のデバイスを並べる際には、1 枚の横長の基板にそれぞれのパーツを配置していくものですが、それぞれの部品の高さが異なり、またそれぞれの部品の高さを合わせる必要がある(例えば指紋センサーと前面カメラは同じ面になくてはならない)ため、わざわざ基板を 4 枚に分割、それを互いに接続しています。見る人が見れば、「やりすぎ」と言われてしまうかもしれません・・・。
ともかく、写真のように、これらの基板+スピーカーが絶妙に重なり合っていることで、液晶ディスプレイ上部に全ての機能がうまく搭載されています。
また、カメラの基板は、高さを稼ぐために非常に薄いタイプの基板が採用されています。見た感じ、一般的な電子基板の半分あるかないか、というくらいの薄さです。
というわけで、液晶ディスプレイユニットだけを見てもこれだけの工夫(という言葉では表現しきれないほどの試行錯誤)が詰めこまれていることが分かるとおり、開発陣が苦心の末にたどり着いた、これ以上の構造はないというくらい「会心の配置」が、type U の小型化を支えているのです。
■関連リンク
これがソニー流“Origami”か!?──新VAIO type Uを分解して、見た! (ITmedia)
スライド式小型・薄型ディスプレイユニット開発秘話 (1) [開発秘話]
こんにちは、担当者 T です。
文庫本サイズのボディに、Windows XP が快適に動作する高性能な PC ハードウェアを詰めこんだ VAIO type U。この構造がどうなっているか?ということに関しては、すでに ITmedia さんに分解されてしまいましたが、実はまだ内部構造が未公開な部分が残っていました。
※ご注意:
今回分解した type U は試作機であり、実際の製品版とは一部外見等が異なります。
また、製品を分解または改造すると保証対象外となります。お客様ご自身では絶対に分解しないでください。
それは・・・この、液晶ディスプレイ部分です。これだけ小さい液晶ディスプレイを分解してもあまりパーツなんて詰まっていないんじゃないの?と思われるかもしれませんが、いやいや、ここにも迫力を感じられるほどの技術と努力が詰めこまれています。
というわけで、実際に分解してみました。
type U の液晶ディスプレイ上部には、基板などが所狭しと収められているのですが、この内部構造は、本邦初公開です。
↑液晶ディスプレイを本体から外してみたところ(裏面)。これだけでも、LCD パネルとメカ的な構造と各種基板とフレキシブルケーブル、コネクターがほぼ隙間なく並べられていて、お腹いっぱいな感じですが、まだまだこんなものではありません。
この液晶ディスプレイの内部構造は、開発陣がかなり苦労した部分です。
まず、開発陣に課せられたミッションは、下記のようなものでした。
■スライド機構への要望
type U では、PC としてはかなり珍しいスライド式の液晶オープン構造を採用しています。このため、このスライド機構には下記のような要求が課せられました。
- スライド機構ガタつかない構造
- スライド機構のスッと開く気持ちいい感触
- スライドする量を最大限にとりつつ剛性を高く、強度を保つ
特に、ノート PC とは違い、ベゼル面(液晶ディスプレイの、いわゆる「額縁」)はいつも触られる場所なだけに、強度や感触には特にこだわりました。
スライド機構自体は CLIE PEG-VZ90 の技術をベースにブラッシュアップしたもので、擦動(しゅうどう)性のあるプラスチックを板バネではさむ構造です。写真にあるように 4 本のレールを設け、スライド機構のガタつきを防いでいます。
と、この小さなディスプレイ部にメカ的機構を収める、という課題だけでもゲンナリしそうですが、ここにさらに以下の各機能を押しこんでいかなければなりません。
■液晶ディスプレイ側に搭載する機能
ノートタイプの VAIO では、液晶ディスプレイ周辺には 《MOTION EYE》 とマイクが内蔵されている程度ですが、type U の液晶ディスプレイ周辺にはこれだけのものが搭載されています。
- 液晶ディスプレイの制御基板
- タッチパネルの回路
- スピーカー
- 指紋認証センサー
- 前面カメラ 《MOTION EYE》(約 31 万画素)
- 背面カメラ 《MOTION EYE》(約 131 万画素)
- 背面カメラ用マクロ切り替え用スライドスイッチ
- 《MOTION EYE》 用 LED インジケーター ×2
- POWER や HDD、Bluetooth、WLAN などの LED インジケーター ×7
■デザイン的制約
さらに、これだけのものを詰めこみつつも、出っ張りなく、スマートに見え、本体とのデザインバランスを崩さないことが必須条件でした。
これら、数多くの要求を全て達成するために、数多くの議論や試作を重ねた結果現在の構造にたどり着いたのですが、それはとんでもなく険しい道のりでした。
・・・というところなのですが、ここまででもけっこう長くなってしまったので、次回に続きます。
キーボードバックライト開発秘話 [開発秘話]
こんにちは、担当者 T です。
今週末から、いよいよ新 type U の発売(およびソニースタイルからのお届け)が開始されます。楽しみにしていただいている方も多いと思います。
type U の魅力はそのサイズ感や Windows XP が快適に動作する高いスペック、考えられた操作系、豊富なアプリケーションと関連製品、など多岐にわたります。が、その中でもソニースタイルのスペシャルコンテンツ「VAIO type U 徹底解剖 THE MOVIE」にあるような「キーボードバックライトの光りかた」に物欲を刺激された、という方も少なくないのではないでしょうか?この blog にトラックバックや nice! をいただいている方の blog を拝見しても、そんなご意見が数多く見受けられます。
というわけで、本日はそのキーボードバックライトの開発にまつわるお話です。
type U のキーボードは、キー押下時に全体がブルーに発光するようになっています。
キーが発光すること自体は携帯電話ではもう一般的なものですし、ブルーに光るバックライトもまれに見かけます。が、type U のキーボードのように「もわんと光ってもわんと消える」ものはまずないのではないでしょうか。
また、キー押下時とキーボードオープン時とでは、異なる光りかたをするように設計されています。
このキーボード発光のギミックが「相棒感」「生き物感」の表現を意図して開発されたもの、というのは以前お話ししたとおりですが、これは以下のような過程を経て開発されたものなのです。
当初から、このキーボードバックライトは単に「ぱっと光ってぱっと消える」機械的な動きではなく、まるで自らが意志を持っているように明滅する動きをイメージしていたそうです。
が、発光量を直線的(直線グラフのイメージ)に増やしていっただけでは光りかたが速く、あっさりした動きにしかならなりませんでした。そこからの道のりは険しく、設計担当が光りかたの気持ちよさにこだわるあまり、20 種を超えるバリエーションをテストしてようやく納得いく形に仕上がりました。
さまざまな試行錯誤を繰り返し、
- 初めはゆっくり、徐々にすばやく光らせていくようなカーブを作ると「もわんと光ってもわんと消える」光りかたになる
- ユーザーがキーボードをスライドして開くスピードは人によらずほぼ一定で、そのスピードと同じくらいの時間をかけて光るくらいの速さが最も気持ちいい
などの結論に達したそうです。
設計チーム内でも「ほんとにそんなカーブが必要なのか?!」「この気持ちよさは絶対に必要なんだ!」といった議論を繰り返した結果、新 type U のキーボードは SF 映画などに出てくる主人公の仲間のロボットやアンドロイドのような、カッコよくかつ愛嬌ある光りかたを身につけたわけです。
また、このキーボードバックライトは、明るい部屋でも光っているのが分かる光量になっています。
携帯電話などでは、本当に暗い場所でないと光っていることが分からないものがありますが、開発者自ら「自慢アイテム」と自負している type U では「昼間も自慢したいだろう」との配慮から、ある程度明るく光らせています。
もちろん、このバックライトが光ることでバッテリー駆動時間に与える影響は極力少なくなるように配慮されていますが、少しでもスタミナを稼ぐためにどうしてもバックライトを消したい方は、下の画像のように BIOS セットアップ画面から「Disabled」に設定することで、バックライトの点灯を禁止することが可能です。
こんなこだわりを持って生み出された type U のキーボードバックライト。Web の動画でもいいですが、ぜひ一度お店やショールームに行って実際の光りかたを見て、この気持ちよさを「感じて」いただきたいですね。